桑沢デザイン研究所 「卒業生作品展 桑沢2020 × シブセイ 『デザインは死なない。 New羅針盤』」レポート

2021/1/19

専門学校桑沢デザイン研究所(東京渋谷区)は、コロナ禍でやむなく中止となってしまった2019年度卒業生作品展を「卒業生作品展 桑沢2020 × シブセイ 『デザインは死なない。 New羅針盤』」という、西武渋谷店の売り場フロアを会場にしたスタイルにアレンジして、2020年11月3日から3週間展示を行った。ギャラリーや校舎でなく、デパートを会場にした一風変わった卒業展覧会の模様をレポートする。

■「学生の個性」に合わせた指導

 
 「バウハウス」思想を受け継いだ日本で最初の「デザイン」教育機関である桑沢デザイン研究所は、独自のカリキュラムでデザインの基礎から専門的な技術や考え方まで幅広く学べることで定評がある。

「昨年に発令された新型コロナウイルス感染防止のための緊急事態宣言により、学生生活は大きく変わりました。けれども、この期間中に桑沢の教職員たちはオンライン授業のメリット・対面授業のメリットを考慮し、試行錯誤をしながらも学びを継続できる環境を整えました」と話すのは、フォトグラファーとしても活躍している桑沢デザイン研究所の鈴木一成先生。

 単に授業をオンラインに振り替えるだけでなく、学生の成長を重視した授業の組み立て方は桑沢デザイン研究所の長い歴史が織りなした賜物だ。「学生ひとりひとりの個性を見て、指導の方法も変えています。特に、実技が伴う授業は家に機材がある学生、ない学生で制作物に差が出てきてしまいますし、オンライン授業では活発に発言する学生もいれば、対面授業で渋い個性を出す学生もいる。それぞれの学生の良いところを引き出せるように務めています」。

 コロナウイルスの影響により中止となってしまった昨年の卒業生作品展を8ヶ月遅れで、西武渋谷店で開催したのは、学生の作品制作への想いを大事にしている桑沢デザイン研究所らしいところだといえるだろう。

お話を伺った鈴木一成先生

■“総体”を見せる卒業生作品展

 
 遡ること2020年2月、新型コロナウイルスの感染者が日本でも爆発的に増加し、卒業生作品展「桑沢2020」はその開催準備のさなかに中止が決まった。「卒業生作品展は桑沢で学ぶ学生たちの集大成。学生たちだけでなく、教員たちも非常に落胆しました。」と鈴木先生。「しかし、そんな私たちの状況を見兼ねてご近所である西武渋谷店さんが『一緒になにかやりませんか?』と、声をかけてくださったのです」

 そこで企画されたのがこの展覧会だ。西武渋谷店の全7ヶ所で卒業生の作品が展示された。約350名の卒業生のうち、自ら手を挙げた卒業生35名の作品が展示されることになったという。

 「桑沢デザイン研究所校舎で行われる従来の卒業生作品展では、専攻の違いがはっきりわかる展示にしていますが、西武渋谷店では桑沢の“総体”を見せることを考え、売り場の雰囲気に合わせつつ、専攻に関係なく見せることを考えました」と鈴木先生。7ヶ所の展示スペースはその階で扱う商品や、空間に合わせたデザインがされている。

©️Soyoka Mizuno 水野そよか 「ゆきひえ」昼間部ビジュアルデザイン専攻
©︎Mayumi Matsushita 松下真由美「燕」 夜間部ビジュアルデザインコース

 デパートの入り口であるA館1階は、桑沢らしさが詰まった作品を配置したという。「スペースデザイン専攻の先生たちとも相談して、会場に馴染みながらも、桑沢という学校の印象が残る構成を組みました。各展示場所にはそれぞれテーマが設定されています。A館1階のテーマは『王道』。全分野の学生の作品を置いて、桑沢がどのような学校なのかを作品で語れるようにしています。」

2階の展示会場
繊細な作品が展示されている

 A館2階の展示は『鍛錬』がテーマ。「シックな商品が多く置かれているフロアなので、手作業でコツコツと作り上げた作品を配置しています。商品に埋もれないように、そして目立ちすぎないように、作品に目を向けてもらえるようにしています」

3階の展示会場。広々としたスペースで展示が行われていた

 フロアの中心に大きくスペースを取ったA館3階のスペースのテーマは『時流』。「学生たちにとって、展示スペースの外にある商品というのはすべて先に社会に出た先輩たちが作ったものなんですよ。そのような場所で、自分たちの作品が人を惹きつけることができるかどうか……。デパートでの展示というのは、試される展示でもあります。」

4階展示会場
仲良しの友達との写真を使って制作した作品

 『集積』がテーマのA館4階スペースには、webサービスや服、写真などが展示されている。「この学生は、展示と写真集を卒業制作にしました。展示では、仲良しの友人との写真を抜き出して展示しています。二人を何年間もずっと撮影していたのですが、気づかないうちに同じポーズで写真を撮っていたそうで、そんな写真だけを集めて展示しています。個人の歴史を積み重ねた、面白いテーマですね」

桑沢デザイン研究所10代目元所長浅葉克己氏による、「Ping-Pongラリー」でのトークショーも行われた
B館3階のテーマは『挑戦』

 ファッションのフロア、B館3階のテーマは『挑戦』だ。「展示している写真などにあわせて、渋谷西武のスタッフの方がマネキンに着せている服を変えてくださったようです。学生たちの作品も、商品の服も、どちらもよりよく見える空間になっている。非常にありがたいことです。」

5階連絡通路の展示。テーマは『羇旅(きりょ)』。
7階は『普遍』をテーマにした展示が行われた

 そして、5階連絡通路のテーマは『羇旅(きりょ)』、B館7階は『普遍』がテーマ。「 羇旅とは、旅や旅情というニュアンス。A館とB館をつなぐ連絡通路なので、往来が多く多くの人に見てもらっています。7階は立体系分野の学生によるパーテーションやドローンのモデルなどを中心に構成しています」

■卒業生たちの声

 
 渋谷という土地柄、西武渋谷店にはデザインに興味関心のある人々が多く入店してくる。そんな人々に作品を見てもらえるのは、学生にとって素晴らしい機会となったことだろう。この日、2020年3月に卒業したばかりのOB、OGも西武渋谷店に多く詰めかけており、彼らにも展覧会の感想を聞いた。

卒業生 ひょうどうさん(昼間部ビジュアルデザイン専攻)

 「友人の展示を見に来ました。例年の卒展と形式が全く違うから面白いし羨ましいですね。ライティングや配置の仕方が従来の会場と異なるので、もともと上質なものがさらに上質に見えるようになっていると感じました。こういうたくさんの人に作品を見てもらう経験は今後社会に出ていくときに非常にプラスになると思います。自分は現在、YouTuberとして活動をしていますが、桑沢で学んだ技術やものを見る視点は本当に役に立っています。「作品が作れない」と落ち込むこともありますが、学校にはレベルの高い友人たちがたくさんいて、彼らを見ているだけで学べるんです。今日、久々にみんなと会えて桑沢の良さを再確認しました。」

ひょうどうさんのYoutubeチャンネルはこちら:
ひょうどうちゃんねる https://www.youtube.com/channel/UC9fU-GyEBFBwBWITCCS5rig


卒業生 松下真由美さん(夜間部ビジュアルデザインコース)

 「A館1階でパッケージデザインの制作者としてブースに立ち、お客様とお話をしていました。通常の卒展とは異なり、全く異なる目的でお越しになり、偶然足を止めて展示を見ていただくお客様ばかりなので、いただく感想や疑問点が先生や友達とは全く異なり、とても驚くことが多かったです。卒業生作品展が中止になったのは非常に残念でしたが、今後、社会に出てからも役立つ経験を積むことができて本当によかったです。」

 コロナという、だれも予想することができなかった理由で卒業生作品展の開催を延期していた桑沢デザイン研究所だが、その長い歴史と実績、そして信頼のおかげで、新しい形での卒業生作品展を作り上げることができた。「渋谷西武店さんで展示ができたのは、学生の制作物に素晴らしいものが多かったから。現在の在校生やこれからの入学生たちにも期待しています」と、鈴木先生。桑沢デザイン研究所の次なる歩みに期待したい。

Information―2020年度卒業生作品展情報


学校を展示会場とした卒業生作品展 桑沢2021(2月末開催・事前予約制)と、オンライン展示による卒業生作品展(3月末公開)を予定。
工藤所長の新体制となった今年度は、当初よりオンライン展示の充実を目指して準備してきたVRによる会場の観覧にプラスして、ウェブならではの企画もあるそう。ぜひ両方の卒業生作品展を鑑賞したい。
詳しくはこちら:https://www.kds.ac.jp/sotsuten/2021