「やんばるアートフェスティバル2020-2021 山原知新」展示レポート

2021/2/3

沖縄本島北部地域、通称「やんばる(山原)」を舞台にした芸術祭「やんばるアートフェスティバル2020-2021」が、1月23日からスタートした。4回目の開催となる、今回のテーマは「山原知新」。メイン会場である旧塩屋小学校と、国頭村・辺土名商店街会場の様子をレポートする。

■「山原知新(やんばるちしん)」

 緑深い森が広がる沖縄本島北部は、島の言葉で「山原(やんばる)」と呼ばれている。やんばるの魅力は、固有種の宝庫である亜熱帯の森だけでなく、それを育む海や川にもある。さらに、そこに息づく豊かな地域文化が評価され、2016年には「やんばる国立公園」に、そして現在、世界自然遺産への登録も見込まれている。そんなやんばるで生まれ、2017年から毎年行われている地域芸術祭が「やんばるアートフェスティバル(以下、YAF)」。1月23日から2月21日まで、大宜味村立旧塩屋小学校を中心に、国頭村、名護市などのホテルや商店街などを舞台に、アート作品の展示やワークショップが楽しめる。

4回目を迎える今年のテーマは、「山原知新(やんばるちしん)」。総合ディレクターであり、写真家・映像作家でもある仲程長治は「今年は人類にとっても大きな転換の節目となったが、本フェスティバルにおいても『古きを訪ね、新しきを知る』機会としたい」と語る。

総合ディレクターの仲程長治

今回は、金島隆弘がディレクターを務めた「エキシビション部門」に21組、沖縄の工芸品を展示販売する「クラフト部門」に20組が参加。芸術祭期間中オープンするショップ「YAF CRAFT MARKET」では、浦添市港川でセレクトショップ「PORTRIVER MARKET」を営む麦島哲弥・麦島美樹がキュレーターとなり、「ボタニカル、植物のある暮らし」をテーマに、やんばるで活動する工房や作家を中心に、やちむん(陶器)や琉球ガラス、紅型、芭蕉布、染織物、木工などの工芸品を集結させている。半分近い作品がYAF初登場。エキシビション部門訪問のあと、とっておきのクラフトを探しに訪れてほしい限定ショップだ。

このほか、会場や展示作品がオンラインで楽しめるインスタレーションビュー、期間中開催されるアーティストパフォーマンス、トーク、ワークショップなどのイベントを随時配信予定。「デジタル、バーチャル、リモートの時代だからこそ、離れた場所にいながらにして共時性を感じるような新時代のアート知新を試みたい」(仲程長治)という想いのもと新しい試みも積極的に展開、遠隔からも楽しめるよう、YAFを盛り上げる。

YAF CRAFT MARKET

■旧塩屋小学校

大宜味村立旧塩屋小学校では、「Nature Land」と題し、ジミー大西が未発表の新作を含めた平面および立体作品約20点を展示するほか、オクマ プライベートビーチ & リゾートでもアートラッピングカー「輪」を展示。

ジミー大西 展示風景

同会場の体育館ステージでは尾竹隆一郎×福本健一郎(OTAFUKU STUDIO)がドローイングや絵画、彫刻が展示されている。福本はコロナ禍において「大切な人との距離を考える機会となった」とし、日常の風景に自分を投影した作品が生まれたことを明かし、尾竹は沖縄の写真を撮り続けているオランダ人のアーティストRoosmarijn pallandtがコロナ禍で来沖が叶わなかった彼女に捧げる作品を発表。

ニューヨーク市在住の現代作家であるKAORUKOは、2020年秋、徳島県吉野川市でアワガミ・アーティスト・イン・レジデンスに参加し、古くから継承されてきた「阿波手漉き和紙」を使用した『Oogetsu hime』を制作。描かれたのは、大宜都比売(おおげつひめ)は古事記に登場する穀物の神とされる女神だ。「彼女が纏っている着物の柄は紅型にも通ずるもので、沖縄とのつながり、ご縁を感じています」。

KAORUKO Oogetsu hime 2020

体育館では、ドイツ在住のビジュアルアーティスト、短編アニメーション映画作家であるアンドレアス・ヒュカーデの短編映画も上映される。

飛生アートコミュニティーは1986年北海道白老町で発足したアートコミュニティー。土地に残る(眠る)神話や伝承、歴史や地勢に焦点を当て、イラストレーターを中心としたアーティストが、フィールドワークや文献リサーチ、地域住民へヒアリングを実施しながらシルクスクリーンやステンシル技巧などを用いて土地が持つストーリーを平面作品にしてきた。今回は「シㇽキオ・プロジェクト in やんばる」と題し、塩屋小学校のある塩屋湾が舞台である500年続く伝統行事「ウンガミ(海神祭)」をフィーチャー。「どんなことがあってもウンガミだけは続いてきたが、今回(コロナ禍で)初めて中止になったのだと無念そうに話してくれた地元の方々に、誰よりも観にきていただきたい」と語る。

飛生アートコミュニティー 展示風景

台湾の現代作家、林冠名は映像作品で参加。窓に、自身のとっての沖縄カラーであるオレンジ色のセロハンを貼ることで、映像に映り込む光の印象で夕暮れや島を表現。島である台湾と沖縄の両方に想いを馳せた。

染谷聡は、沖縄県立博物館が所蔵する『朱漆山水楼閣人物堆錦椀』をモチーフに「琉球海景」を表現。琉球漆器に描かれた中国風の景観が、「沖縄の工芸品」として琉球政府時代の琉球切手(3セント)の図柄になるなど、中国なのかアメリカなのか沖縄なのかが交差する歴史的な面白さを自身の解釈で辿り、3作品を制作。作品の向こう側に垣間見える扇形の盆石も「物語」と「景色」の一部として鑑賞してほしいと語ってくれた。

染谷聡 展示風景

スケートボードは「生きがいであり自分の表現」と話すDaichi Koyama:D。滑りながら描く線は「残像」だが、それこそが自分の魂を表現していると語る。教室の中心に置かれた木製のインスタレーション「源」は「はじまり」を意味し、四方八方に鮮やかにエネルギーを放つ。

ドローイングを中心にイラストレーションや漫画などを手がける寺本愛。鹿児島の離島での生活から、身体の皮膚感覚の変化を感じるとともに、島と海とを隔てる島の海岸線について考えるように。YAF参加は2度目。今回描かれた作品の輪郭の強さに、彼女の変化を感じる。

寺本愛 展示風景

2020年2月にオープンしたホテル アンテルーム 那覇のコレクションより、宮古島出身の八木恵梨による沖縄のモチーフを使用したドローイング作品、ホテルのギャラリースペースで存在感を放つ小林絵里佳や堀口葵による立体作品が登場。小林の無機質な素材で有機的な動きを表現する試みからは、両局に存在するものの面白さが見えてくる。堀口の作品は実際に触ることで意外性に気づくことができる。

ホテル アンテルーム 那覇のコレクションより小林絵里佳(右)と堀口葵(左)の作品

総合ディレクターである仲程長治もアーティストとして参加。「空紗美羅 – クーシャビラ -」とは八重山の言葉で「継ぎ接ぎ」のこと。染織家の石垣昭子さんの作品の切れ端を自身の作品につながる世界を空間全体で表現。種子から植物が芽吹き、糸が生まれ、紡がれていく営みが広がる。

仲程長治 展示風景

沖縄の子どもたちから募った物語から選んだ『キセキのデイゴ』の空間とパフォーマンスで表現&上演するウサギニンゲン。物語の舞台を実際に訪れ、取材から作品を生み出すのも、映像と一緒にパフォーマンスをするのも初の試みとのこと。

ウサギニンゲン 展示風景

石垣島出身のバンド「BEGIN」のギターボーカル、島袋優が描くウクレレ。小さな空間はまるで録音室のよう。浜の砂も敷かれており、「波とウクレレ」という名前のとおり、その世界に一気に引き込まれるはずだ。

丹羽優太が2年前に北京在住のアーティスト孫遜との縁を得たのはYAF。スタッフとしてともに空間を作り上げたのち、北京へ留学し、彼のスタジオに滞在し制作を行っていましたがコロナ禍の影響で帰国。実家の両親や京都のお寺の副住職さんとの共作、清水焼の釜で手がけた立体作品、さらに孫遜と共作した新作を2年前と同じ家庭科室を舞台に披露。「また一緒にお酒を呑めますように」という想いを込めて。

丹羽優太 展示風景

Mrs. Yukiは、自然界の遺伝交配に関心をいだいた平嶺林太郎と、爬虫類や昆虫がもつ形状や色彩に惹かれる大久保具視で2009年に結成されたアートユニット。暗闇の中で星のように光るそれを見つめると、ひとつひとつが昆虫たちの営みであることが分かる。さらにそれは同性同士の営み。彼らが問いかける「生命同士の精神的な強い繋がり」を、星を探すように見つめることができる空間だ。

文=板谷圭

Mrs. Yuki 展示風景

■国頭村・辺土名商店街

国頭村・辺土名商店街会場では、ストリートカルチャーと現代美術を横断する今注目のアートユニット・SIDE COREによる新しいプロジェクトが展示されている。

今回のプロジェクトでは、辺土名商店街の空き店舗を使用して、アーティストのSTANG、security blanket(ame+fumijoe)、KINJOの3組が参加。

それぞれストリートカルチャーのシーンで活躍するアーティスト達で、この居抜きの店舗跡地でPOP UP SHOP=「期間限定の店舗」を作り、その中でアート作品を展示する。ストリートカルチャーとはアメリカの若者文化であり、世界中でその土地の文化と混ざり合いながら独特の発展を遂げている。あまり知られてはいないが、沖縄は米軍基地がある歴史的経緯から日本で最もストリートカルチャーシーンが盛んな場所の一つだ。今回この展示では、ストリートアート 、ZINE、TATTOO、スケートボードなどを題材としながら、「文化を通して、人や街の風景が繋がっていくこと」をテーマとしている。

3組のSHOPを詳しく見ていこう。

辺土名商店街の空き店舗を使用したSIDE COREによるプロジェクト

ZINE SWAP MEET CAMP by STANG
STANGは大阪をベースに活躍するストリートアーティスト。大阪の新世界にある商店街でアートショップ「VOYAGE KIDS」を運営しており、世界各国のアーティストの作品やZINE、グッズなどを展示販売している。STANGは2015年より定期的に、日本中のアーティスト達からZINEを集め、日本各地の路上で販売/交換会するイベント「ZINE SWAP MEET CAMP」を開催しており、今回展示しているトラックも会期中沖縄各地を回る。ZINEとは即興的にコピー機などを使って作られる、断片的な情報で構成された「記憶のかけら」のようなアートブック。つまり、ZINE SWAP MEET CAMPは、たまたま街角でSTANGを見つけた人が、普段見ることのできないZINEに触れることができるという内容で、それは「誰も知らない本」だけを置いた本屋が、街角に蜃気楼のように出現する幻想的な体験だ。今回の展示では、これまでSTANGが集めたZINEのアーカイヴ、新作のZINE、そしてこれまで回ってきた地域の記憶を展示。ZINEは手にとって見られるが、非常に繊細なものなので気をつけて鑑賞したい。

ZINE SWAP MEET CAMP by STANG

security blanket Tattoo shop by security blanket(ame+fumijoe)
security blanketはameとfumijoeの夫婦のTATTOOアーティスト・ユニットで、昨年までチェコのプラハに、現在は大阪を拠点としながら世界中で仕事をしている。TATTOOは日本ではネガティブなイメージがあるが、近年その芸術性が評価されつつあり、ここ沖縄も日本では有数のTATTOO文化が栄えている場所だ。TATTOOアーティストにも様々な活動や表現があるが、ameとfumijoeは世界各国(台湾・韓国・タイ・香港・イタリア・ドイツ・チェコ・ポーランド)にゲストワーク、TATTOOのコンベンションに参加しながら旅をし、その土地土地で出会った様々な文化に影響を受けながら新しい表現を模索している。だからこそ2人のスタイルには多様な物語性があり、なおかつ可愛らしいスタイルが特徴的だ。今回、展示している絵は2人が世界中で彫ったTATTOOの図案であり、2人を通して世界各国の文化が混ざり合ってきた記憶でもある。また、今回は2人が実際に普段使用しているTATTOO用のベッドが設置されており、施術の様子を映像作品として見ることができるほか、TATTOOを彫る音が聞こえ、普段入ることのないTATTOOショップに入る体験を作品として作り出している。

security blanket Tattoo shop by security blanket

HOMECOMING  by KINJO
KINJOは東京で育ったが家族のルーツが沖縄にあり、会場から車で10分ほど南下した大宜味村に実家がある。那覇空港から辺土名までの58号線沿い、今回KINJOがその区間にある様々な地域でスケートボードをし、その途中の風景を撮影。また映像では「目の絵」を持ってスケートボードを滑っており、この目はKINJOの作品に度々登場するモチーフだが、今回は子供の頃から見ていた風景を改めて振り返るKINJOの視点を意味している。映像は沖縄の伝統的な住宅が並ぶ住宅街から、アメリカの文化が混ざり合った商店街まで様々な場所を抜け、最終的にKINJOの家族のお墓まで辿り着く。その内容はKINJOのルーツを巡るロードムービーのように私的なものだが、同時にアメリカと日本の混ざり合った沖縄の風景をスケートボードやストリートカルチャーのフィジカルな視点で、その面白さや特殊性を再発見している。 展示が終わればPOP UP SHOPは閉じてしまうが、彼等が作りだしたストリートカルチャーのリンク/繋がりは、やんばるの風景を異なる場所の風景と繋げ続ける。

HOMECOMING  by KINJO

Information―やんばるアートフェスティバル 2020-2021

■会期: 2021年1月23日(土) ~ 2021年2月21日(日)
■料金:入場 無料
■総合ディレクター:仲程長治
■会場:大宜味村立旧塩屋小学校(大宜味ユーティリティセンター)、オクマ プライベートビーチ & リゾート 、辺土名商店街 、オキナワ マリオット リゾート & スパ 、カヌチャリゾート 、名護市民会館前アグー像
■関連リンク:
公式ホームページ http://yambaru-artfes.jp/
YAFネットストア https://yafokinawa20.thebase.in/