歌舞伎の新たな楽しみ方を模索。松竹芸能インタビュー・舞台レポート

文化芸術収益力強化事業 サバイブのむすびめ

2021/3/2

 伝統芸能や交響楽団、劇団などの舞台芸術団体や美術館・博物館の多くは、入場料収入を経営の基盤としている。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、公演中止や延期が相次ぎ、収益機会が著しく減少しており、社会的な課題となっている。

 この状況を改善するため、文化庁の文化芸術収益力強化事業として、凸版印刷が受託した「デジタル技術を活用した映像配信等による新たな収益確保・強化事業」、「サバイブのむすびめ」では、収益確保のためにデジタル映像配信などを新しく取り組もうとする団体をサポート。文化芸術を未来につなげていくことを目指している。

 令和2年度に、この事業に採択されたのは64団体。そのなかから、注目の取り組みをピックアップ。今回は、伝統芸能分野の松竹芸能の公演の様子をレポートする。

歌舞伎のおもしろさを、新しい方法で伝えたい

 2022年に創立65周年を迎える老舗のタレントプロダクション、松竹芸能株式会社は、演劇事業や映像事業を手掛ける松竹株式会社のグループ会社のひとつ。同じグループ会社が運営する歌舞伎座や、新橋演舞場、大阪松竹座は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、公演中止や制限を余儀なくされ、経営自体にも大きな打撃となっている。

 この状況のなか、2021年2月7日(日)に新しい形での歌舞伎のオンラインライブが開催された。そのタイトルは「市川九團次と行く『超時空オンライン歌舞伎ツアー 成田詣でござる!』」。歌舞伎俳優の市川九團次が、成田山新勝寺へお参りする道中を記録した『序章~開運祈願 成田詣ツアー編』の映像配信(無料)と、2021年2月7日(日)に開催された本公演『本編~開運成就 ありがとう奉納演舞編』(有料配信 3500円)の2コンテンツからなるものだ。

ライブ配信『本編~開運成就 ありがとう奉納演舞編』より

 この公演が、どのような狙いで行われたものか、松竹芸能株式会社取締役の小林敬宜さん、ともに今回の公演を企画した株式会社LivePark代表取締役社長の安藤聖泰さん、取締役宮下仁志さんにそれぞれ話を伺った。

左からLivePark安藤聖泰さん、宮下仁志さん、松竹芸能小林敬宜さん

 「歌舞伎はこれまでさまざまな努力により、若年層のファンも増えつつあるのですが、現時点で劇場に足を運ぶ方は高年齢の方が多いのです。となると、感染への不安から、劇場への足が遠のく状況はまだ続く状況でした」と話すのは小林さん。「この機会に、若年層にアプローチできる方法も探していたのです」

 文化庁の「デジタル技術を活用した映像配信等による新たな収益確保・強化事業」を小林さんたちが知ったのは、申請締め切り日目前のこと。ライブ配信アプリLIVEPARKを運営する株式会社LiveParkとの定例ミーティングのときだった。「こんな事業があるよ、と会議のなかで話題になりました。そして、きちんと内容を読んでみたところ、私たちが企画していたオンライン配信の内容に合致。急いで書類を用意し、無事に採択されました。」と、株式会社LiveParkの安藤さんは語る。

本番配信前には行者による公演成功の祈願が行われた

観客が2度楽しめるデジタル代参+オンラインライブ配信

 株式会社LiveParkは日本テレビグループのライブ配信会社。まもなく普及する5G(第5世代移動通信システム)も念頭に置きつつ、鑑賞者にも出演者にも、楽しんでもらう配信スタイルを模索していた。「コロナ禍において、オンラインライブの上演回数は非常に増加しています。しかし、無観客ライブというのは観客の視線や掛け声、熱意など、出演者が客席から受け取れる熱量が圧倒的に欠けてしまい、気持ちが乗り切れない演者さんも多い」と宮下さん。「また、単に定点カメラを回しているだけの中継も多い。役者の頑張りが観客に伝わりにくくもあります」と安藤さん。

ライブ配信スタッフは10名以上。カメラや音声、回線オペレーションなどさまざまな分野のプロフェッショナルが会場の能楽堂に集った。

 小林さんも語る。「小演劇などでは上演後のアフタートークなどで観客と出演者が交流を図る機会があるが、歌舞伎や観客数の多い劇場などでは、なかなかそのような交流もできません。けれどもライブ配信の仕組みをうまく使えば、この問題も解決できるのではないかと考えていました。文化庁の収益化事業は、私達のやりたいことと方向性がぴたりと一致した」

 このような経緯で「市川九團次と行く『超時空オンライン歌舞伎ツアー 成田詣でござる!』」が、これらの問題を解決する新しいオンライン配信として企画されたのだ。

 『成田詣でござる!』のコンテンツのひとつ、『序章~開運祈願 成田詣ツアー編』は、歌舞伎俳優の市川九團次が成田屋(市川家)にゆかりの深い成田山新勝寺に視聴者に代わってお参りを行うバラエティ要素とドキュメンタリー要素が融合した映像コンテンツ。

Youtubeで配信『序章~開運祈願 成田詣ツアー編』
リンク:https://www.youtube.com/watch?v=_-WKm3tgJf4

 「江戸時代、“代参”という文化がありました。当時、伊勢神宮は誰もが一生に一度はお参りに行きたい憧れの場所。けれども、旅の資金や法律、体力的な問題などあり、簡単に行けるところではありませんでした。そこで、江戸時代の人々は地域などで少しずつお金を出し合い、一人に代表してお参りに行ってもらうことにしました。この“代参”の文化を令和に復活させたのが今回の成田詣ツアーです」と、宮下さん。

 「そして、無事に成田までお参りできたお礼の気持ちをこめ、成田山へ演舞を奉納する。この模様を『本編~開運成就 ありがとう奉納演舞編』として有料で配信します。新型コロナの状況で、多くの人々が気軽に外出できない状況が続いています。けれども、江戸時代のように自分たちのかわりに誰かが外に出かけ、無事にお参りできた喜びを共有する。新しい形の“講”なのではないかと考えています」

 『序章~開運祈願 成田詣ツアー編』は、公演日の4日前にYoutube上で公開を開始。成田屋と新勝寺の縁にとどまらず、成田周辺の見どころスポットなども紹介し、本公演への期待を高める役割のほか、成田市のイメージアップの効果も果たしている。

 「映像を見ていたファンのみなさんは、ライブ配信公演前から期待を高めてくれていたようです」と安藤さん。

“おひねり”や“大向う”が自宅から気軽に

開演前のLIVEPARKの画面。公演が始まる前からコメントが殺到し、盛り上がりを見せている

 そして、この成田山への演舞を奉納する模様を配信する『本編~開運成就 ありがとう奉納演舞編』を、ライブ配信アプリ「LIVEPARK」を通して配信。このライブ配信が通常の配信と大きくことなるのは、公演中に「おひねり」や「差し入れ」を、演者である市川九團次に、スマホ画面を通じて送付できること。

 鑑賞者は、九團次の登場場面や、見得を決めたとき、心が震えたタイミングで、拍手や「高島屋!」といった大向う(声援)、名前入りの提灯などを気軽に送ることができる。そして、その模様はリアルタイムで画面を見るもの全員に伝わるようになっている。「リアルタイムで掛け声をかけてもらうため、今回のライブ配信は簡単に操作できるスマホだけの配信にしました。デバイスをスマホに絞ったため、非常に凝った演出が可能になりました」と小林さん。

絶妙なタイミングで大向うが表示される。「家だと舞台と異なり、自分のタイミングで大向うをかけられるので楽しい」という観客からのコメントも寄せられていた。

 ちょうちんを送ると、画面上には名前入りの提灯が表示され、観客自身で盛り上がりを演出することができる。直接は出会えない観衆同士が連帯して応援し、舞台を盛り上げるなかでゆるやかな連帯感も生まれていく。

ライブ配信中も巨大モニタでコメント内容やいただいたおひねりが映し出されていた
市川九團次による『翁千歳三番叟』
市川九團次による『翁千歳三番叟』
『静と知盛』を舞う市川九團次

 この日、九團次が披露した演舞は『翁千歳三番叟』と『静と知盛』。本公演とは異なり、特別な衣装や化粧を施さずに演じたため、演者の細かい仕草や表情がカメラに映し出されていた。約1時間の公演中、観客からの掛け声やコメントは途切れることなく続いていた。

『静と知盛』を舞う市川九團次
観客のおひねりやコメントをスマホで確認し大喜びの市川九團次

 そして、公演終了。通常の歌舞伎公演では行われない「アフタートーク」も、特別に実施された。観衆から寄せられたコメントや質問を九團次がひとつずつ読み上げていくたびに新しい掛け声が寄せられ、コメント欄は盛り上がる。

 「こんな形でお客様の喜んでいる声をリアルタイムで見ることができるのはとても嬉しい。こちらも元気をいただけます。またぜひオンラインでライブ配信を行いたいですね」と語り、手応えがあったことを感じさせた。

 松竹芸能株式会社は、今回のオンライン配信の仕組みをブラッシュアップし、さらなるコンテンツを企画したいと考えている。

 「事前収録した配信動画とライブの組み合わせも、演者が公演にかける意気込みを事前に知ることができます。今回は成田屋と縁の深い成田市をレポートしましたが、演目で舞台となっている土地を演者が訪れたりすれば、その地域のPRにもなりますし、視聴者は演目についてさらに深い知識を得ることができる。単なるライブ配信よりも得られるものが代わってくるはず」と小林さん。このコンテンツをきっかけに、歌舞伎はもちろんのこと、映像配信やさまざまなことに興味を持つ方が増えてほしいと感じています」と今後の展望を語った。

文=浦島茂世
撮影=稲葉真

Information―

『超時空オンライン歌舞伎ツアー 成田詣でござる!』

■序章~開運祈願 成田詣ツアー編
・視聴方法:
LIVEPARKアプリ(https://www.livepark.co.jp/)
YouTube LIVEPARKチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCU6JG_LRJso9fENBRsMh-oQ
LIVEPARK Twitter(https://twitter.com/livepark_jp
■本編~開運成就 ありがとう奉納演舞編
・開催日時:2021年2月7日(日)16:00〜(終了)
・料金:LIVEPARKアプリ内課金3500コイン(1コイン1円相当)
・視聴方法:LIVEPARKアプリ(https://www.livepark.co.jp/)

令和2年度戦略的芸術文化創造事業「文化芸術収益力強化事業」
サバイブのむすびめ

文化庁の令和2年度戦略的芸術文化創造事業「文化芸術収益力強化事業」として凸版印刷が受託した、文化芸術団体の新たな収益確保・強化を支援する「デジタル技術を活用した映像配信による新たな収益基盤の確保・強化」事業。新型コロナウイルス感染症の拡大による収益機会の減少により、多くの舞台芸術団体・博物館などの文化芸術団体の経営環境が厳しさを増すなか、美術出版社との協同プロジェクトとして、異なるジャンルの文化芸術団体が、ニューノーマル時代をサバイブするためのノウハウの共有や議論をする場を提供・活性化させることにより、文化芸術を次代につなぐことを目指す。

スペシャルサイト:survivenomusubime.jp/