オンライン演劇で演者と観客、観客同士の距離をゼロにする。オラクルナイツインタビュー

文化芸術収益力強化事業 サバイブのむすびめ

2021/3/10

 コロナ禍において、演劇はそのあり方から大きく見直しを迫られている。劇場での席数の削減や空調の改善のみならず、演出や衣装の変更、稽古環境の見直しなど、あらゆる点を変革している。

 この状況下で、株式会社オラクルナイツは、文化庁「文化芸術収益力強化事業」の「デジタル技術を活用した映像配信等による新たな収益確保・強化事業」に採択された演目『WAR→P! in Troupe ONLINE 雛鳥の巣立ち』をはじめ、オンラインを活用してインタラクティブな新しい演劇の形を提示している。株式会社オラクルナイツ代表取締役の桜庭未那さんと、制作の五町麻衣子さんにその詳細を伺った。

出演者と観客がコミュニケーションを取ることで物語が進行する

 株式会社オラクルナイツは2016年に設立され、コロナ禍に至るまでは1〜2ヶ月に1本のペースで公演を行ってきた。「オラクルナイツが上演する『WAR→P!』シリーズは、そのなかでもテーマパークのアトラクション感覚で楽しめる他にはない演劇。通常の演劇のように椅子に座って鑑賞するスタイルではなく、観客が主体的に出演者に話しかけたり、アクションを起こすことで物語に変化が生じるのです」と話すのは、オラクルナイツを主宰し、『WAR→P!』の企画・原案・総合プロデュースを統括している代表取締役の桜庭未那さんだ。

オフラインでの『WAR→P!』公演の様子
出演者と観客がコミュニケーションを取ることで物語が進行する

 観客は自由に会場を歩き回り、登場人物と会話を交わし、依頼された課題にチャレンジし、他の観客と情報交換をしていくことで物語が展開していく。「プレイヤーが直接参加する体験型ゲームに、『成功』や『失敗』だけではないエンディングを迎えられるものを作りたいと思ったのが『WAR→P!』を作ったきっかけです」と話す桜庭さん。その舞台やストーリーは学園や劇団、王国とさまざまで、各観客もその演目の登場人物として活動するのだ。

 『WAR→P!』では、観客の自由度が非常に高い。「困っている登場人物に出会ったとき、その人を助けるのも助けないのも観客の自由。助けることで、特別な手がかりをもらえるかもしれないし、助けないことで、別の物語がはじまるかもしれない。能動的に動くのが苦手な方は、出演者と別の観客の動きを観察するだけでもいい。一つの物語でも、参加者のアクションは各公演で変わります。それに連動して出演者のセリフも、エンディングも変わっていくんです」そのため、出演者たちのセリフは通常の舞台よりも数倍の量があり、またアドリブ力も求められるという。

オフラインでの『WAR→P!』公演の様子
出演者からは「薬を取ってきてほしい」「別の場所にいる出演者に伝言をお願い」など、さまざまな課題も提示される

 そして、その自由と多様なシナリオが観客の心を掴んでいる。「一つの演目でエンディングも10種類以上用意されていて、当日の観客がどのようなアクションを起こしたのかを集計してから内容が決まります。そのため、エンディングギリギリまで、出演者たちも次になにをやるのかわからない状態です。けれども『2分後からのエンディングはパターン9で』と指示をすると、出演者たちはすぐに対応できるように稽古を重ねています」

オフラインでの『WAR→P!』公演の様子
物語の結末は毎回変化するため観客はリピーターも多い

オンライン公演に向けた試行錯誤

 新型コロナウイルスの流行で外出自粛になる直前の2020年の1月には、浅草の遊園地、花やしきを借りて観客100名ほどの大規模な公演も行ったという。「観客同士で友達になって、劇中で起こる課題を協力して解決したりすることもあるんですよ」

 「しかし、その直後に新型コロナウイルスが流行してしまいました」と制作の五町麻衣子さんは当時を振り返る。

 通常の演劇公演の場合、舞台と客席との間隔、観客同士の間隔を十分に取り、さらにこまめな換気を行うなど綿密な対策を取れば、現在でも公演することは可能だ。しかし、参加者と出演者がコミュニケーションを取ることでストーリーが進展する、『WAR→P!』シリーズの場合は、通常の感染予防対策を講じたとしても公演を行うことが非常に難しい。

 五町さんは「距離なしで俳優の演技を見られる演劇としての没入感と、自分のアクションが即座にアドリブを交えた俳優の演技で返ってくるインタラクティブな没入感。この二つが『WAR→P!』の魅力です。けれども、その二つは感染予防対策を講じると不可能となります。状況はオラクルナイツの公演にとって非常に致命的でした」と話す。

 そこで、桜庭さん、五町さんらオラクルナイツのメンバーが模索したのがオンライン公演だ。「参加者のアクションでコンテンツやエンディングが変化するシステムは、オンラインゲームが生まれるより前から存在していました。それらを参考にすれば難しいことではないと考えました」と桜庭さん。

 演出の池永英介さんを交えた各スタッフの創意工夫によって、2020年10月に最初のオンライン公演「WAR→P! in Troupe ONLINE 雛鳥の巣立ち」が上演された。

「WAR→P! in Troupe ONLINE 雛鳥の巣立ち」のweb画面。
観客は各部屋をクリックして出演者とコミュニケーションを行う。

 同公演は、チケットを購入した観客が専用のwebサイトにアクセスするところから始まる。画面上に表示されている地図から行きたい部屋を選択すると、その部屋専用のZoomのブレイクアウトルーム(Zoom参加者を小さなグループにわけて話し合いができる機能)に入室でき、その部屋に待機している俳優たちとコミュニケーションを取り、謎を解き明かすことで物語が進んでいく。

 しかし、このオンライン公演は運営側にも負担も非常に大きかったという。「当時は自主財源のみの公演で、足りない機材や技術は力技でなんとか遂行しました。お客様からの感想も非常によく、手応えを感じることができたのですが、赤字にもなってしまい、『WAR→P!』を続けたいけれど、どうすればいいのか……。

そんなときに、ちょうど文化庁の『デジタル技術を活用した映像配信等による新たな収益確保・強化事業』の存在を知って申請し、無事に採択されました。」と五町さん。

「WAR→P! in Troupe ONLINE 雛鳥の巣立ち」で観客と対話を行う出演者。劇団員を目指す出演者たちを観客が審査するというストーリー。

 事業に採択され、まずオラクルナイツが行ったのは資金の関係で10月の公演では実現できなかったシステムまわりの整備だ。俳優1人に対して2台のパソコンとカメラを導入した。

「10月の公演では、出演者一人にパソコンが1台という体制だったので、出演者が観客一人と会話をしているときはそれ以外の観客は待機せざるを得ませんでした。その部分を改善すべく、一人あたりのパソコンを2台にし、出演者と観客が会話しているときに、もう一つのパソコンで二人の会話を他のお客様がその模様を眺められるんです。また、回線を増強するなどオフライン公演の状況を可能なかぎり再現できるようにしました」と五町さんは話す。

 オンライン配信でネックとなる機材周辺の問題を、今回の助成を活用して無事にクリアしたのだ。

「WAR→P! in Troupe ONLINE 雛鳥の巣立ち」のエンディング“卒業公演”の様子。配役や上演シーンは本編中の観客たちの行動によって毎回変わる。

 また、今回の公演ではあえてZoomのビデオ機能をオフで音声のみにも参加できるようにしたという。「オンラインで参加されるお客様の多くが、ビデオに映るのは抵抗があるようです。実はそれが観劇のハードルになっていることもある。今回、ビデオオフでも参加できるようにしたことで『衣装などを気にせずその世界の住人になりきって推しの俳優さんと会話ができてとてもよかった』、『まだ小さい子供が近くにいても、他の方に迷惑がかからないので安心して参加できた』という声もいただきました」と桜庭さん。オンライン配信によってより気軽に観劇を楽しめるという兆しも感じることができたようだ。

従来のエンターテインメントの枠に囚われない、今後の演劇の可能性

 「『WAR→P!』シリーズなどのアトラクション公演は、今後しばらくはオンライン配信が主になっていくと思います。そのとき、オフラインだったときと同等、あるいはそれ以上の没入感を持ってもらえるようにするのが今後の課題。そのために、どのような演出にすればよいか、どのようなシステムを組めばいいのかを検討し、ブラッシュアップしていきたいです」と桜庭さん。

「WAR→P! in Troupe ONLINE 雛鳥の巣立ち」の操作画面。観客はzoomで鑑賞する。

 「海外の方にもグローバルに見ていただけるような、言葉をあまり使わないノンバーバルなコンテンツや、観客が海外の観客ともオンラインで繋がれるようなコンテンツもゆくゆくは作っていきたいです。『WAR→P!』シリーズは、もともと出演者と観客の距離がゼロになればいいな、と思って作ってきました。さらにオンラインの仕組みを使えば、遠く離れた観客同士の距離もゼロに縮めることが可能です。」

 また、実際に公演に参加する子供たちが能動的に考え、問題解決を図る様子を見て、演劇を教育現場に活用できるのでは、という実感を持っているという。 「実際に、オラクルナイツでは『WAR→P!』の他に『七城学園 月蝕校舎~セブンススクール・ルナパレス』という歴史や確率論などについて学ぶことができる教育に特化した受講型舞台も行ったことがあり、そのオンライン化にも今後力を入れていきたいです。さまざまな枠組みを取り払った新しい形のエンターテインメントを作っていきたいですね」と桜庭さんは今後の展望を語ってくれた。演劇の楽しみ方は、さらなる拡がりを見せそうだ。

文=浦島茂世

Information―

『WAR→P! in Troupe ONLINE 雛鳥の巣立ち』

・開催日時:2021年1月22日(金)~ 1月24日(日)(終了)
・料金:前売券 3,600円(税込)
・視聴方法:Zoom
・企画/原案/総合プロデュース : 桜庭未那
・脚本/演出/クエストデザイン : 池永英介
・主催 : 文化庁、株式会社オラクルナイツ
 文化庁委託事業「文化芸術収益力強化事業」

令和2年度戦略的芸術文化創造事業「文化芸術収益力強化事業」
サバイブのむすびめ

文化庁の令和2年度戦略的芸術文化創造事業「文化芸術収益力強化事業」として凸版印刷が受託した、文化芸術団体の新たな収益確保・強化を支援する「デジタル技術を活用した映像配信による新たな収益基盤の確保・強化」事業。新型コロナウイルス感染症の拡大による収益機会の減少により、多くの舞台芸術団体・博物館などの文化芸術団体の経営環境が厳しさを増すなか、美術出版社との協同プロジェクトとして、異なるジャンルの文化芸術団体が、ニューノーマル時代をサバイブするためのノウハウの共有や議論をする場を提供・活性化させることにより、文化芸術を次代につなぐことを目指す。

スペシャルサイト:survivenomusubime.jp/