デザインは「人のためのもの」だからこそ面白い-京都芸術大学で得たキャリアへの展望―

2020/7/28

電通 コピーライター/プランナー 可児なつみさんインタビュー

京都芸術大学(当時・京都造形芸術大学)を卒業し、現在は電通でコピーライター/プランナーとして働く可児なつみさん。有名ドーナツ店の広告からテレビCM、企業の社員スローガンまで、多くのクリエイターと関わりながら多岐にわたるジャンルの仕事を手がけている。そんな可児さんが大学時代に学んだ、クリエイティブに大切なこととは?

漠然とした憧れから美術大学へ。


−−どうして美術大学を受験しようと思ったのですか?

子どもの頃から図工が好きでしたし、両親の影響で現代アーティストの日比野克彦さんの展覧会に行ったり、図録を読んだりしていました。どんな職業を目指すのかは決まっていませんでしたが、漠然と美大に入って絵を描いたりしたいと思っていました。

美大に行くと親に言うと反対される方も多いかもしれませんが、私の場合は両親ともに学校の教員で、美術に理解がありました。「高校を出て、センター試験も受けて、ちゃんと勉強した上ならいいよ」と言ってくれたのです。将来の夢を聞かれたとき、一貫して美術のことしか語らなかったので、両親も私は美大に行くものだと思っていたのでしょう。

−−京都芸術大学に入学されたきっかけを教えてください。

私は岐阜県出身ですが、姉が京都の大学に通っており、訪れた際に京都芸術大学の前を通りかかり気になっていました。大学受験を考えた時に調べてみたら、好きだった日比野克彦さんが客員教授にいらっしゃったのです。また、絵を描いたり物を作る技術だけではなく、社会学や英語の授業も受けられると知り、本命で受験することにしました。

大学は全体的に「おっとり」した雰囲気があり、そこも自分に合っているポイントだったかもしれません。派手過ぎないというか、文化祭や卒業式などのイベントで仮装したり、騒いだりする人が少ないです。

学部をまたいだ交流が、仕事に必要なコミュニケーション能力を培った。


−−入学されたのはどんな学部でしたか?

現在はないのですが、芸術学部の情報デザイン学科コミュニケーションコースというところにいました。主にグラフィックデザインを学ぶ学部でしたが、最初は関係ない授業も色々受けました。所属学部に限らず、気になる授業を受けていいというのが、京都芸術大学の面白いところです。学部を横断して授業をカスタマイズすることができるのです。

私の場合は1年生で映像や写真など、網羅的に授業を受けさせてもらいました。2年生になるときに、タイポグラフィに絞って、関係ある授業ばかりを受講するようになりました。興味のあるものを見つけるまでは、本当に色々なことをやらせてもらったと思います。

−−印象深かったのはどんな授業ですか?

1年次のはじめに、天井に届くくらい大きな「ねぶた」をつくる授業がありました。全学部の生徒が混ぜこぜになって、ひとつのねぶたをつくるのですが、人によって特技が異なり、作業分担が自然とできるんですよね。例えば、骨組みは建築学科の人にといった具合です。アートというと、ひとりで黙々と制作するものだと思っていたのですが、みんなでつくるのもありだなと思いました。「ねぶた」なんて、タイポグラフィとは一切関係ないと当時は思っていたけれど、今となっては、ひとりきりで完結する仕事など一つもないので、みんなでひとつのものをつくり上げることこそ、仕事において大切な学びだったと思います。

「授業=やりたいこと」だったからこそ、堂々と自己PRできた。


--現在の会社は広告代理店ですが、入社したきっかけは?

もともと広告代理店は選択肢になかったのですが、インターンというものがあるから試してみればと言われて、受けてみたのがきっかけです。こういう世界もあるのかと興味を持ち始め、就職先の選択肢に上がってきたのです。

広告代理店以外は、ブックデザインをできるような会社や紙媒体のデザインをするような会社に入って、文字詰めとかを職人的にやっていきたいと思っていました。でも、そういう会社は少ないし、個人の事務所が多くて、人の募集をかける時期がまちまちなんです。実は募集があるまで待っている間の練習くらいのつもりで今の会社に入社したのですが、仕事が楽しくて辞めずに続けているという状況です。

--美大生だからこそ就職活動で有利なことはありますか?

就職活動の面接などで必ず聞かれるのが、「大学で何を学んでいたか」ということですが、美大以外の大学の生徒さんは、答えられない場合が多いのです。授業以外に、クラブ活動をしていたり、バイトを頑張っていたりしなければ、話すことがないという感じです。美大生はその点は楽をさせてもらっていて、授業とやりたいことがイコールで結ばれているから、私はこれを作ったんだ、これに夢中になっていたんだと胸を張って言えます。

自己表現ではなく、人が喜んでくれるものをつくるのがデザイン


--現在の仕事内容を教えてください。

コピーライターやCMプランナーとして、新聞に掲載されるコピーを考えたり、都道府県のPR映像をディレクションしたり、様々な仕事をしています。

例えば、「ミスタードーナツ」からさつまいもをイメージした新商品のコミュニケーション制作の依頼を受けて、コピーライティングやCMのプランニングを担当しました。初めて試食させて頂いたときにあまりのさつまいも感に驚いたので、いかにそのさつまいも感を伝えるか、いかにさつまいもスイーツ好きにときめいてもらえるかという点を意識しながら制作しました。

可児さんが担当した「ミスタードーナツ」のコミュニケーション。
「イモイモしい」というキャッチコピーが商品の「さつまいも感」を豊かに連想させる。


結果、商品の特徴がストレートに伝わるキャッチコピーを開発できたと思います。CM放送後に材料が足りなくなるほど売れ行きが良かった、と商品開発の方にも喜んでいただき、やりがいを感じました。

スタッフサービス「オー人事」の案件も最近の大きな仕事のひとつです。高校生の方の親世代などには懐かしさを感じさせる「オー人事」CMを、20年ぶりに復活させるという意図で大々的にキャンペーンを行いました。このポスターはキャンペーンの一部で、仕事の悲哀をご当地ネタを盛り込んで描いた交通広告です。

愛知のご当地ネタを取り入れたポスター。


普通、広告は商品・サービスの特徴を伝えるものであって、私が言いたいことを言う場ではありませんが、この仕事では自分が普段感じている仕事の愚痴をそのままコピーにしました。すると多くの方に共感してもらい、広告を写真に撮ってインスタグラムに掲載するなど、SNSで非常に反響がありました。

コピーライター3人、アートディレクター1人のチームでご当地ネタを調べ、とにかくたくさんのコピーを書き、ポスターにしていくという、文化祭の準備や合宿を思わせる楽しい仕事でもありました。ポスターの手書き文字には私たち制作スタッフの書いたものも混じっています。

--大学で学んだタイポグラフィの技術は仕事にどういきていますか?

自分がデザインをやっていたので、アートディレクターと意思疎通がしやすいです。コピーを書くときも、この人がやりたいと思っているデザインに合わせるには、これくらいインパクトが強いコピーにしたほうがいいなとか、カタカナの方がいいかなとか思ったりします。

あとは、制作を行う上でのマインドの部分です。タイポグラフィを学び始めた時に、当時情報デザイン学科で教えられていた佐藤淳先生が「アートとデザインは違う」とおっしゃっていました。その言葉に強く影響されています。

つまり、デザインは自己表現ではないということです。それまで、デザインは華やかなイメージだったのですが、佐藤先生から「自分のやりたいことをするのではなく、見る人のこと、文章を書く人のことを考えてやる学問だよ」と教えてもらって、目から鱗が落ちたようでした。

--今、仕事で目標にしていることは?

私が今やっている仕事は様々なケースがあります。例えば、コピーをつくって終わることもあれば、たくさんのスタッフと一緒に映像をつくることも、人々の目に触れることがない、企業内で共有するためのスローガンをつくることもあります。毎回、ジャンルも違えば目的も様々で、常に新しいことを覚えなければいけない立場だなといつも実感しています。けれど、仕事のゴールはいつも同じで「誰かに喜んでもらえるものをつくりたい」ということです。佐藤先生から教わった「人のために」というのが、教訓になっているのだと思います。

学部を超えた人との関わりやデザインの授業を通して、自分のやりたいことをやりたいようにやるのではなく、見る人のこと、共に働く人々のことを考えながら物事を進める大切さを学んだ可児さん。自分の特技を生かしつつ、他者とプロジェクトを進めるバランス感覚は、多くの人々が関わるプロフェッショナルな広告制作の分野で発揮されているようだ。