データから読み解く 美大生の「キャリア形成」

2021/2/3

喜始照宣= 文


美大生は大学にどんな思いで入学し、卒業していくのか。芸術系大学や美術予備校に着目した論文を多く手がけてきた気鋭の研究者が、美大の理想と現実をデータからひも解く。

好きなことを仕事にし、社会のなかでの役割を見つけたい

美大の学生は、仕事や将来についてどう考えており、卒業後どのような進路を歩むのか。このような問いは美大の課題を考えるうえでしばしば聞かれるが、具体的なデータをもとに議論されることはあまりない。今回は数値をもとに、「よそ者」の視点から美大生のキャリア形成について考えたい。

まず、美大の学生を対象に筆者が独自に実施したアンケート調査から、かれらの仕事や将来に対する意識を読む。下記の図に、6つの質問項目に対する回答結果を掲載した。回答者の多くは、調査時点で1、2年生であった。

 ①や②の結果から見よう。ここで注目されるのは、とりあえず大学に進学した学生が全体の4割弱いることだ。アートを手段に何をしていくか、具体的な目標を掲げ入学する者は決して大多数派ではない。大学時代の制作・研究活動を通じて自らの将来を手探りで求めていこうという状態で、かれらは入学してくるのではないか。その傾向はとくに美術系学科で強い。

 いっぽう入学後、かれらは仕事や将来について何を考えるのか。③~⑥の結果を見ると、全体の約6割が「たとえ実現できなくても夢を追い続けたい」、約8割が「給料は少なくても好きな仕事をするほうがいい」、「社会のなかで自分が果たすべき役割を見つけたい」と回答している。好きな仕事はしたいがそこまで夢追い志向ではない、できれば社会のなかでの役割を獲得したいという学生像が表れている。そして、「自分の将来に対して不安を感じている」者が8割以上を占める。美大の学生に限らず若者の将来不安は高いが、アート界という不確実性の高い世界に軸足を置き、アートを通じて社会的役割を獲得することに対する展望のなさ、困難さがこの結果に反映されていると考えられる。

調査名(時期):「美術系大学生の生活・意識・進路に関するアンケート調査」( 2013年7月~11月)
調査協力校:全国の美術系大学4校。いずれも美術系大学の中では入学難易度で上位・中堅に位置する機関。
回答者数:526名(所属学科:美術系[絵画・彫刻・工芸など]28%、デザイン系[建築含む]55%、理論系[芸術学など]6%、その他[映像・写真など]10%、無回答1%)ただし、分析では留学生13名を除いた。
美:美術系 デ:デザイン系 理:理論系 他:その他
①②:左から「とてもあてはまる」「まああてはまる」「あてはまらない」の割合 
③~⑥:左から「とてもそう思う」「まあそう思う」「そう思わない」の割合

卒業後は、アートに限らず多様な職業へ

つぎに、美大の学生は卒業直後どのような進路を歩むのか。正確な把握は難しいが、文部科学省のデータから卒業後の状況を知ることができる。平成29年度学校基本調査によると、「芸術」関係学科の卒業生は1万5513名おり、そこに「美術」2306名、「デザイン」3592名などが含まれる。

 進路を見ると、「美術」の卒業生では進学者が17%、就職者が50・5%、「デザイン」では進学者が4.1%、就職者が72%である。「美術」では制作時間・場所の確保のため大学院に進学する者が多く、「デザイン」ではインハウスデザイナーとして就職する者が多いことが、この差を生むのだろう。ただ、どちらの学科でもアルバイトで生活する者や進学・就職準備中の者などが少なくない割合いる。「美術」で26・8%、「デザイン」で19・7%である。アーティストを目指す者、非正規のアート関連職に就いた者、集大成である卒業制作・研究を終え、将来を再考し始めた者がここに含まれると推測される。

 さらに、同調査から「芸術」関係学科全体での就職者の職業がわかる。それによると、「芸術」関係学科で就職した卒業生のうち、アート関連職を含む「専門的・技術的職業」は55・6%と半数を超えている。ただし、「事務」や「販売」「サービス職業」に就く者も合計で4割近い。美大・芸大を卒業してもそれとは直接関連しない分野に就職する者は珍しくなく、その割合はここ数十年で徐々に増えている。

 詳細は省くが、先の筆者による学生調査では、卒業直後に就職を希望する学生のほとんどが「美術・デザイン関係の会社に就職」を選択していた。上で見た実際の就職者の職業構成と比べて大きな違いがある。入学当初の期待に反して、美術・デザイン関係以外の道へと進む者が実際には多いのだろう。

 在学中にアートについての考え方だけでなく、アートを通じた生き方を学ぶ機会をどのように創出し、学生の将来不安を軽減させていくか。目的を探し求めて大学に入学した学生、アートに限らない多様な職業の道に進む学生にどのような教育・支援ができるか。今回のデータから浮かび上がる、美大にとっての課題はこうした点にあると筆者は考える。

きし・あきのり
教育社会学。1987年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。現在、園田学園女子大学人間健康学部助教。論文に「芸術系大学出身者と労働」など。